吉井妙子『頭脳のスタジアム』

頭脳のスタジアム 一球一球に意思が宿る

頭脳のスタジアム 一球一球に意思が宿る

 Numberに載っていた書評を読んで興味を持った本。かつて白球を追いかけてた人間の一人として、敬意と共にとても興味深く読めた。なんと言っても、「一流選手に学ぶビジネスの極意」とかいう加齢臭漂うテーマじゃなくて、純粋に一線のスポーツ選手のパフォーマンスという部分に焦点を当てているのが良いよね(だからこそもうちょっと掘り下げて聞いて欲しいと思う部分もあったけど)。この本を読めば、プロ野球選手に対するイメージが少なからず変わるんじゃないかと思う。村上春樹さんが書いておられたと思うんだけど、一流のアスリートで頭の回転の遅い人はいないのだ(たぶん)。

 この本に登場するプロ野球選手は八人――松坂大輔城島健司松中信彦和田毅宮本慎也和田一浩五十嵐亮太、豊田満。彼らのインタビューを文章化したものを中心に、運動力学という分野の大学教授の分析等をはさみつつ構成されている。

 予想通りというか、冒頭の松坂大輔の章が(ひとつの読み物としてみれば)一番つまらなかった。大学教授のコメントも含めて「スゴイからスゴイのだ」という最強のトートロジーが光り輝くばかりで、憂いや挫折のもたらす陰がどこを探しても見当たらないのだ(もちろん自慢話をしているのではないし、悪い印象を与えているわけでないのだけれど)。他の選手のインタビューと読み比べると、改めて松坂の天才ぶりが際立つ。自然児が資質のおもむくままに活躍しているのだな、と思う。松坂のインタビューが面白くなる――深みを帯びる――のは、メジャーに行って二回り位タフになったころなんじゃないだろうか。


 残念な点として、選手へのインタビューが文章として再構成される過程で選手一人一人の息遣いのようなものが失われているように感じた。映像で見る限り、能弁なアスリートであればあるほど、話の抑揚や沈黙の間合い、目の輝きや動き、そしてボディ・ランゲージでも多くのことを伝える。そういった部分がこの本ではごっそりと抜けている。こう言っちゃなんだが文章も整いすぎてる。
 自分が感じていることを的確な言葉で表現することが出来る選手だからこそ、まとめる側はコトバに頼りすぎず、非言語的な情報を伝える努力をもっとすべきだったんじゃないか、と思った。