BillEvans『Interplay』


 アマゾンやHMVの「この商品を買っている人はこんな商品を買っています」コーナーを見ると、村上春樹さんの文章を参考にしてジャズのCDを選んでいる人が多いらしいことに気づく。まぁぼくもその一人なんだけれど、なんとなくその状況はすごく分かる気がする。

 もちろん村上さんの文章が素晴らしいという要因も大きいんだけれど、それ以上にジャズ評論家的な人の問題も大きいんじゃないだろうか。だってジャズについて書かれた本は(初心者向けに限っても)多いけれど、そのほとんどは「ジャズの魅力以外の何か」について書かれていて、積極的にジャズを聴いてみようという気持ちにさせてくれるものはほとんどないもの。少なくとも僕にとってはそうだった(とある本には「ジャズ喫茶で何をリクエストすれば舐められないか」といったテーマのコラムまであった。あぜーん)。能書きたれるのは全然構わないけど、誰彼構わず能書きしかたれられない人というのはやっぱり問題があると思うのだ。

 それに対して村上さんの文章は、(書こうと思えばいくらでも薀蓄を傾けられるはずなのに)基本的には音楽を聴く歓びや感動を核にして書かれていた。改めて考えると、村上さんの音楽に関する文章はぼくにとって彼の小説の存在に負けないくらい貴重な出会いだったような気がする。知識という意味でも生き方の姿勢という意味でも。