ロバート・ゴダード『千尋の闇』

千尋の闇〈上〉 (創元推理文庫)

千尋の闇〈上〉 (創元推理文庫)

千尋の闇〈下〉 (創元推理文庫)

千尋の闇〈下〉 (創元推理文庫)

ゴダードの初期の傑作(これがデビュー作!)ということだけど、評判に違わぬ面白さだった。
1910年、政界から謎の失脚を遂げ、同時に全く理由も分からぬまま婚約者にも袖にされた青年政治家。晩年の彼が残した回顧録を元に、失職中の元歴史教師が史実の背後にある謎を解き明かそうとする…。
長厚な歴史ミステリーで、過去の探索と現在に生きる人間の思惑が複雑に絡み合うプロットは読み応え十分だった。謎解きにとどまらず、島田荘司さんの小説的な精神の気高さを描いていて、胸が熱くなった。過去に手は届かなくても、未来に思いを残すこと出来るんだよな。

あーでも、主人公の恋愛(?)描写がダメダメ。「華も無く、ずば抜けた知性も無いけど、もがきつつ頑張る中年主人公」というのはゴダードの十八番なんだけど、そこだけは読んでて死にたくなった。もしかしたら翻訳の影響もあるのかな。芝居がかったセリフを訳すのって自ずと限界がある気がするし…。