サイン会

scotty2005-10-30


 島田荘司さんのサイン会に行ってきました。

 新聞広告では14:00からの予定だったので13:30頃に三省堂に行ったのだけど、その時点ですでに階段には列が出来ていて、整理券の配布も終わっていた。余裕を持って行ったつもりだったのに島田さんの人気はやっぱりすごい。
 とりあえず本を購入し、店員さんに状況を詳しく訊ねると「今すぐに追加の整理券を出すことは出来ないが、15:00の時点で追加の整理券を配布するかどうかを決める」とのこと。望みが無いわけではないので、レシートを財布にしまい、神田の町を散策することに。神田はこの週末、街をあげて古本祭りをやっていた。通りをちょっと歩いただけでも洋書を扱うお店がいくつもあり、興味を引かれた。でも、僕は大きな荷物を抱えていて、古本屋の細い通路を周りの人に迷惑をかけずに歩く自信が全く無かったので、店内に入るのは自粛。道端のワゴンセールを冷やかすだけで、スタバで時間をつぶす(一枚目の写真はスタバの窓から通りを撮ったものです)。

 15:00になったので、多少の不安を感じつつ一階のレジへ。店員さん同士のやり取りから、追加の整理券は問題なく発行される気配だったのでひとまず安心。ただ、休日の三省堂一階はタダでさえ人が多いのに、それに加えて整理券の発行を求めてレジの近くに何十人もの人が集まり、一階はかなり混雑していた。このままじゃ収拾がつかなくなるのではないかと、別の意味で不安になったけれど、店員さんが巧く捌いてくれて、たいした混乱も起きず、僕もすんなりと整理券をもらうことが出来た。

整理券を持って階段に出来た列に並ぶ。冷房の効かない階段で汗だくで列が進むのを待つ。島田さんのサインがもらえるのだ、これくらいなんでもない。


 整理券をもらってから、さらに45分くらい待ち、ついに念願の島田さんのサインをいただくことが出来た。不思議と緊張はしなかった。島田さんは凄くにこやかで、張りのある声がとても渋かった。そして、どういうわけか握手をさせていただいた時の手の平の柔らかさが印象的だった。肉厚なのにゴツゴツしていない。御手洗潔氏に言わせれば、「なに、お金さえ触れなければこんなものですよ」というところだろうか。でも、良く考えれば、たとえ親しい人間であってもその人の手の平の感触がどんな感じなのかなんてなかなか知る機会は無いのだけれど。ともかく、それはとても親密な手の平であり、握手だった。
 みんなサインだけでなく島田さんと一緒に記念撮影をしていた。でも僕にはとても恐れ多くてそんなことは出来なかった。サインと握手で十分ですよ、マジで。少しだけお話をしてお別れする。当たり前だけど、惑星に与えられた時間は短い。
 同じ日の夕方から行われる宮台さんと北田さんの対談も気になったけど、こちらは時間が合わないので後ろ髪を引かれつつ三省堂を後に。


 サインをもらっている時はあまり実感が無かったのだけれど、御茶ノ水の坂を上っているうちになんとなく切なくなってきて、少しだけ目が潤んだ。上手く説明の出来ない感情だし、自分でも理由もよく分からない。いろいろと思い出のある御茶ノ水に何年かぶりにきたせいもあるのかもしれない。
 その後も「俺は今、あの島田荘司にサインをもらったのだ」という現実に遠近感が狂ってしまい、しばらくの間、自分の体にうまく自分が収まっていないような感じだった。


 実物の島田荘司先生を拝見した、というのももちろん十分に衝撃的だったのだけれど(実はこれに関しては以前にちょっとだけ免疫があるので)、変な話だが、それよりも列に並んでいる人の客層の広さの方が印象的だった。
 店員さんの話では「300人プラス当日整理券分」ということなので、僕が見た限りでは人数としてはおそらく400人を軽く超えていたのではないかと思う(かなり不確かな推定)。 そして、列に並んでいる人を見るとも無く見ていると、ほんとうにいろいろな年齢層の、いろいろな傾向の方々がいたのだ。まるでひとつの小さな街の住人を丸ごとバスに乗せてサイン会に連れてきたみたいに、老若男女、様々な佇まいの人が偏り無くいた。「ああこの人たちも御手洗の活躍に唸り、吉敷さんの苦闘に拳を硬くし、通子の数奇な運命に心を痛めたりしたのだな」と思うと、島田さんの小説の持っている意味が前よりも少し分かったような気がした。文章によって、これだけ幅広い人間の気持ちを揺さぶり、心に(決して小さくない)何かを残すことができるというのは一体どんな気持ちなのだろう。まるで想像もつかない。どんな気持ちなのだろう?


 最後まで気さくにサインをしてくださった島田先生、そして三省堂の店員さん、写真係の編集者の人、素敵な機会を提供してくださってありがとうございました。


摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

デザインにも凝る島田さんなので、御手洗ものは内容だけでなく装丁も大きな楽しみの一つ。デザインは別にしてもカバーの紙質がちょっとチープな感じがするかも。これが普通なのかもしれないけど。