羽生道英『伊藤博文』

伊藤博文 近代国家を創り上げた宰相 PHP文庫

伊藤博文 近代国家を創り上げた宰相 PHP文庫

「帯に短し襷に長し」というか、小説として見れば、想像力に欠けて文章も野暮ったいし、本格的な歴史書として見れば、論理性や統一的な視点に欠けているように感じた。資料のつぎはぎというのは言い過ぎかもしれないけど、粉がうまく溶け切らなくてダマになっているココアを飲まされているみたい、というか。PHP文庫の歴史シリーズは結構当たりハズレがあるなぁ。

でも、近代史に関しても伊藤博文についても知らないことだらけなのでそれなりに勉強にはなった。ただ、読む前に一番関心があった大日本帝国憲法の制定過程について記述が少なかったのは残念。それと、明治天皇が「神聖かつ聡明であり、ほとんど全知全能の君主として積極果敢に行動された」という人物観についても凄い違和感。「明治政府の中枢にいた連中にとっては、天皇というのは動員のための『ネタ』だった」という視点に立てば、伊藤の天皇に対する発言と内心の思惑にはそれなりのズレがあるはずなのだけど、この著者は「発言=内面」という部分を全く疑っていないようなので、かなり違和感があった。