田中秀臣・安達誠司『平成大停滞と昭和恐慌』

平成大停滞と昭和恐慌~プラクティカル経済学入門 (NHKブックス)

平成大停滞と昭和恐慌~プラクティカル経済学入門 (NHKブックス)

岩田規久男先生の「昭和恐慌の研究」を読んでみようと思って、その下準備というかウォーミングアップのつもりで買ってみた。

 議論自体はとってもためになったのだけれど、この本、充実した脚注を付ければずっとずっとずっとずーーーーっと学習効果の高い本になったと思う。その意味で編集者のセンスを疑ってしまう。

 あとがきを読むと、元々は著者の二人があちこちで書いた言説をタイトルのテーマで集めて加筆修正したものらしい。そのせいかどうかわからないけど最初から知識を積み上げていくというよりは章ごとに違った道具建ての知識を必要とされる。専門家相手ならいざ知らず、啓蒙書というコンセプトならこの本で前提となっている知識のすべてを読者に当てにするべきではないし、それを補うための脚注を入れた構成にするべきだったと思う。それなりに経済に興味のある人が読むのだろうけど、この本に出てくる専門用語のほとんどが説明なしで通じる人間なんて物凄く限られていると思うのだ。プラクティカルを看板に掲げるならそのくらいの配慮があってもいいと思う。
 二章もミクロやマクロの基本的な枠組みを使ってデフレギャップとかを説明しているんだけれど、はっきり言ってこれじゃあ説明になっていないと思う。こういった知識のない人は経済学の専門用語(基礎的だけど)の羅列で意味が通じないし、こういった知識のある人にしてみればほぼ既知の内容だからだ(インフレギャップが上手に説明できていないし)。
 専門家というのはたとえ説明が下手くそでも、知識量や洞察力のおかげで話を聞いてもらえる。だから往々にして自分の説明が相手に伝わっているものと勘違いしている。だから本当の説明能力は未知数。元々読みやすい文章を書ける人もいるし、そうじゃない人もいる。そして多くの人はその問題に習熟しすぎて素人が何を知り、何を知らないのか、好奇心のある素人の自然な発想がどんなものなのかと言うことがあんまりわかっていない。
その意味で編集者は専門的な議論に通じていると共にあくまでも読者の視点を忘れない読者の代弁者でなくてはいけないと思う。
少なくともこの本には、工夫すれば潜在的な読者を開拓できるポテンシャルがかなりあるんじゃないかなぁ、と思った。